分子の性質を語る上で、分子中の核の形式電荷は、とても重要な概念です。特に無機化学や錯体化学では非常に役立ちます。高校の化学でも鉄の3価と2価のイオンの色が違うとか教わりました。計算化学でも、いくつかの方法によって原子核周辺の電荷を簡単に計算することが可能です。しかしそれらは、通常無機化学や錯体化学の核電荷とは良く対応しません。まあ、「分子のこの辺が+(プラス)だね」とか、「若干-(マイナス)だよね」とかには使えます。とはいえ分子内の原子核の電荷は結合など、様々な相互作用の理解に便利です。分子の電気双極子モーメントは、特にマイクロ波分光などによって宇宙空間にある分子などを探索するのに大いに役立ちます。電気双極子モーメントは正電荷から負電荷への力のベクトルです。(もちろん磁気双極子モーメントというのもあり、これはすべての磁石が持っています。地球も大きな磁石ですから磁気モーメントを持っています。)
簡単な2原子分子(実は計算化学的にはとても難しい)である一酸化炭素(CO)の双極子モーメントの核間距離依存性を図に示しました。計算はハートリーフォック法で、炭素原子を原点におき、酸素原子はZ軸上に置きました。計算はGaussian03Wで行いました。◆が基底関数としてSTO-3Gを用いた一番お手軽な場合、■がちょっと高価な6-31G**の場合です。STO-3Gでは、1.2と1.3Åの間で双極子モーメントの値の正負が変わっています。6-31G**では、1.0から1.1Åの間で変わっています。これは、炭素と酸素の電荷の正負がそのあたりで逆転していることを意味します。COの平衡核間距離の実験値は1.128Åですから、この距離ではSTO-3Gと6-31G**では正反対の答えを出します。平衡核間距離でのCOの双極子モーメントの実験値は0.1098 Debyです(つまり炭素が負、酸素が正)ので定性的には、簡便なSTO-3Gの方が正しい振る舞いをしています。
ちなみに簡便な電荷の計算法であるMullikenの電荷を用いてこの双極子モーメントを計算すると、この距離の範囲で正負の逆転は見られず、ずっと負のままです。炭素が正で酸素が負です。Mullikenの電荷をみると炭素原子と酸素原子の正負の関係がずっと同じなのに、双極子モーメントは逆転していることをみると計算化学の難しさを感じます。まだまだ計算出力をつぶさに見ることといった修行が足りません。ああ、先は長い。
CONFLEX iNSIDEは計算化学を応援しています.
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