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2007年5月19日土曜日
「大規模分子計算」
近年の計算機の発達、特に高性能ワークステーションの発達と普及により、さまざまな科学技術分野において従来成し得なかった大規模計算が可能となってきています。このことは計算化学の分野においても例外ではなく、数年前までは数100基底の分子軌道計算でさえ多大な労力を必要としていたのが、現在はワークステーションクラスターなどの並列計算機環境を用いることにより、生体高分子などをターゲットとした20,000基底を超える分子軌道計算が行われつつあります。一番大きな分子軌道計算は、2005年11月に発表された光合成反応中心タンパク(下図)のもので、原子数2,0581、電子数77,754、基底数164,442 (6-31G*)といった計算規模です[1]。今ではもっと大きな系の計算だって実行されています。巨大分子系の非経験的分子軌道法の分野には日本人の研究者が多く活躍しているのです。
[1] Ikegami et al, "Full Electron Calculation Beyond 20,000 Atoms: Ground Electronic State of Photosynthetic Proteins", Proceedings of International Conference for Supercomputing and Networks, SC2005, Seattle, USA, November, 2005.
大規模計算は一般に膨大な演算量を必要とするため、その解の信頼性には仮数部のビット数が大きく影響しています。現在、殆どの分子軌道プログラムでは他の科学技術計算と同様に倍精度実数計算を採用していますが、大規模分子の場合においてはそれで十分な精度をもった解が得られるという保証はありません。すでに、計算機上での数値実験結果から、従来のフォック行列計算法では基底数が数千に達すると計算されるエネルギー値は化学的精度を満足できないこと、しかし計算アルゴリズムを工夫することによって大規模計算に必要な10,000基底程度の場合でも倍精度実数計算で化学的精度を満たすことが可能であることが知られています。大規模計算には、計算の各段階において非常に注意深い実行が必要とされます。
計算化学は合理的に医薬分子や材料分子を設計する際にも不可欠な手段ですので、現実に近い分子系を扱うことのできる大規模分子軌道計算の重要性は今後さらに増すものと期待されています。
CONFLEX iNSIDEは計算化学を応援しています。
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