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2007年5月10日木曜日

「分子構造」



 計算化学と一口に言っても、量子論的電子状態シミュレーション、古典力学的シミュレーション、モンテカルロシミュレーション、そしてデータベースからのデータマイニングをもとにした物性推算、およびQSAR(定量的構造活性相関)と多岐に渡ります。これは、原子分子から物質まで、固体液体気体、絶対零度付近の極低温から原子炉内のような超高温、宇宙空間のような高真空から内燃機関内の超高圧といったように、化学で取り扱われる現象の多様性を反映しています。このような多様な現象を小さな計算機一つで取り扱えるようになったのはすごい!ことで、そう古い昔ではありません。まだここ20年くらいのことです。


 計算化学を使えば実に様々なことが容易にわかります。例えば、MgCNやFeCNなど3原子分子なら、分子構造といった分子定数は、精密な非経験的分子軌道法を用いると、今の計算機を使って一ヶ月ぐらいでわかるのです。ところが、実験では1986年に観測が試みられてから20年が経過した今日まで、まだちゃんとした結果が出ていません


 突然ですが、分子構造で有名な話はカルベン(メチレン:CH2)です。CH2は、今では水と同じように曲がった構造をとることが広く知られています。ところが、この分子の構造(基底状態の三重項メチレン)が直線であるのか、曲がっているのかの論争が、40年くらい昔にありました。今手元に資料がないので正確なことは書けないのですが、簡単に言いますと...

 まずヘルツベルグが直線であると予言しました(ヘルツベルグは、その後にノーベル化学賞をもらった(1971年)ほどの大物です。)それで、まあ、いつの時代もそんな人はいるものですが...この大物の予言をサポートする実験の論文や計算の論文が出ました。ところが、当時たぶん20代のシェーファーが計算結果を基にCH2は曲がっているという論文を書きました...その後10年ぐらいの間に日本人を含むいくつかのグループで精密な実験が行われて...そしてシェーファーの方に軍配を上げました(その成果というわけではないですが、シェーファーはずいぶん若くして教授になっています。)


 CH2の構造の計算は、今ではノートPCでせいぜい2秒くらいでできてしまいますが、実験では限られたプロフェッショナルでも依然として最低3ヶ月程度はかかります。CH2の構造は、ポープル対ワトソン・クリックのDNAの2重らせん構造のようなノーベル賞に発展するような結果ではないのですが、知識と経験には乏しいが血気に逸る若者(計算化学)と、知識と経験に満ちあふれた温厚な老大家(実験化学)の競い合いの物語として記憶しています。計算化学がその価値を認知される過程での話です。


 若い人の足を引っ張るおやじではなく、若い人のあこがれの対象となるようなおやじになりたいな。


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