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2007年3月5日月曜日

「計算化学と実験化学のちがいは何?」


 化学は自然界における物質の性質の測定(what)とその性質の解明(why)を通じて得られた知識を元に、自然界にはない“人類の生活に有用な”新たな物質を如何に(how)作り出す事を目的とした学問領域です。(少し言い過ぎか!?)そのため、物質の測定分野として物理化学が、新たな物質を作り出す分野として有機化学無機化学の分野があります。“人類の生活に有用な”物質に関するあらゆるものが化学の対象です。人類は地球上に現実に存在する物質ですので、化学は基本的に地球上の自然にあるものを対象とする実験化学の一分野として発展してきました。そのため、実験化学は記録に残っているだけでも、数百年に及ぶ長い歴史を持っています。

 他方、計算化学は1920年代に誕生した量子力学にその基礎をおいており、1950年代初頭に産声を上げた電子計算機の発展とともに成長して来ました。一番簡単な分子であるH2+分子イオン(Burrau [1])とH2分子(Heitler-London [2])が(計算尺で)計算されたのは、1927年です。同じ年に今でも広く用いられている平均場の考え方「原子核と他の電子によって作られる平均的な場の中を分子内の電子は運動する。」がHundによって提出されています。2年後の1929年にはニュートンに並び称される大物であるDirac(現代のニュートンは車いすの天才ホーキングでしょう。)が「量子力学の一般的理論は、今やほぼ完成し(中略)したがって、物理学の大部分と化学の全体の数学的理論に必要な基礎的物理法則は完全に判っていると言うことであり、困難は、ただこれらの法則を厳密に適用すると複雑すぎて解ける望みのない方程式に行き着いてしまうことにある。」(訳:藤永茂、「分子軌道法」、岩波書店、1980年)と言い切っています [3]Mullikenの「分子軌道法」が1932年 [4]、1939年には学部学生であったFeynmanHellmann-Feynmannの定理として知られているいくつかの定理のうちの静電定理が発表されています [5]。(昔は若くして論文書いていたのですねー。)1920年代はEinsteinをはじめとして物理のきら星たちが重要な理論を発表した年代です。Fermiの指導で1942年に臨界に達したシカゴ大の原子炉は計算尺を使った設計ですしねー。うーん。すごい。ああ、なんか歴史を語ってしまいました。

 地球上に存在する物質を対象とする実験化学と違って、計算化学は量子力学を元にいろいろな近似を加えた方程式を電子計算機を使って解く分野です。計算化学における方程式と電子計算機が実験化学におけるビーカやチャンバーです。そのため、計算化学は100年の歴史を持たない若い研究分野です。計算化学が実験化学者に欠かすことのできないツールとして認知されたのは、ここ20年ほどの事です。それには、電子計算機の急速な性能向上とGaussianシリーズをはじめとするソフトウェアの発展と普及が不可欠でした。今では分子の配座探索にはまずCONFLEXを用いた解析がなされ、その後で実験的に確かめられるといったように、計算化学が完全に化学研究に取り込まれています。

 CONFLEX iNSIDEは計算化学を応援しています。



References:
  1. [1] Ø. Burrau, "Berechnung des Energiewertes des Wasserstoff Molekel-Ions (H2+) im Normalzustand", Det Kgl. Danske Videnskabernes Selskab, Mathematisk-fysiske Meddelelser, VII, 14 (1927).
  2. [2] W. Heitler and F. London, Zeitschrift für Physik, vol. 44, p. 455 (1927). English translation in H. Hettema, Quantum Chemistry, Classic Scientific Papers, World Scientific, Singapore (2000).
  3. [3] P. A. M. Dirac, Proc. R. Soc. London, Ser. A 123, 714 (1929).
  4. [4] Robert. S. Mulliken, "Electronic structures of polyatomic molecules and valence.", Phys. Rev., 40, 55-71 (1932); "Electronic structures of polyatomic molecules and valence. II. General Considerations", Phys. Rev., 41, 49-71 (1932); "Electronic structures of polyatomic molecules and valence. III. Quantum Theory of the Double Bond", Phys. Rev., 41, 751-758 (1932).
  5. [5] R. P. Feynman, "Forces in Molecules", Phys. Rev., 56, 340-343 (1939).




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