筆者が学生の頃は、計算化学事始めとして、まずヒュッケル法を習いました。実は筆者はちゃんとハートリーフォック法を講義で習った初めてぐらいの化学の学生です。でもハートリーフォック法は 難しくて、式だけでは良く判らず、まあ、判らなくてもプログラムは動かせるので、実際の分子を計算するのですが、無免許運転で車を運転するより難しくて、 答えを見ても何がなんだか良く判らないのです。車の運転より計算化学が難しいというのは、無免許でも安全に目的地に着ける事があるけど、計算化学ではなか なかそうはいかないからです。むしろたいていはドジをふみます。例えば分子構造が対称なのに答えが非対称、つまり計算間違いなんて事は普通にあって、問題は計算間違いに気づかないことなのです。話が飛んでしまった。
ところがヒュッケル法は、行列が簡単で、ヒュッケル法のプログラムを作って波動関数をいじり回していると、なんか電子状態が判ったような感じになるのです。もちろん対称性なんて崩れません。フォック行列の非対角項の行列要素の計算は複雑で大変です。それをヒュッケルは、行列の非対角項を炭素―炭素なら1に置けというわけです。そのような行列を対角化するとベンゼンやナフタレンのπ電子状態がちゃんとわかるのです。天才恐るべし!!
もう一つ天才恐るべしの例は、ボーアの2次元的な素朴な電子模型が与える水素原子の離散的なエネルギーレベルとその平均半径の表式が、3次元のシュレディンガー方程式をちゃんと解いたものと形式的に全く同等であるということです。ボーア模型は前期量子学で習いますね。もちろんこの模型からは角運動量やスペクトルの選択則などについては全く何も言えないのですが、それにしても、一番大事なエネルギー表式が合っちゃうなんて。天才というのは何か判らないけど正確に正しくたどり着けるのですね。
寺田寅彦の随筆に「科学者とあたま」と題したものがあります[1]。その中の一説...
「頭のいい人には恋ができない。恋は盲目である。科学者になるには自然を恋人としなければならない。自然はやはりその恋人にのみ真心を打ち明けるものである。」
筆者は妻に恋したのですが、頭が良くないことを悲しむべきか悩むところです。でもあのアインシュタインだって恋文を残しています。
CONFLEX iNSIDEは計算化学を応援します。
Reference:
- [1]「寺田寅彦随筆集 第四巻」,小宮豊隆編、岩波文庫、岩波書店,1948年.
2 件のコメント:
寺田寅彦の作品は青空文庫で読めますね。
研究者を志す者にとっての必読書と言えるかもしれません。
ロビーさん,こんにちは.
自分はどのタイプの研究者なのか考えさせられますね.というか,研究者に向かないとか...(笑)
今後ともよろしくお願いいたします.
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